<書誌情報>
原作:宮口幸治 漫画:鈴木マサカズ
新潮社「くらげバンチ」連載
<作品紹介>
少年院で精神医療業務を勤める六麦克彦。知的能力や認知機能に問題を抱えて罪を犯した、“ケーキを三等分できない”彼らに六麦は寄り添っていく…。ベストセラーの新書をもとにしながら、新たな漫画作品として描く。
原作/宮口幸治(みやぐち・こうじ)
<コメント>
「色んな才能を持ち寄った方がいいものができる」
さいとう・たかを先生のお言葉の重みを感じています。新書版『ケーキの切れない非行少年たち』のコミック化の話があったとき、すぐに何人かの少年たちの顔が浮かんできたものの、本当に自分に書けるのか不安でしたが杞憂でした。私の拙いシナリオを鈴木マサカズ先生は、想像以上の二次元世界に広げてくれました。少年院という舞台は鈴木先生にしか描けなかったと思います。でもそれだけでは足りません。私と鈴木先生との間で様々なアイデアや調整、書店周りなどの営業をこなされた編集部の岩坂朋昭様の作品への思い入れがあって、このような名誉ある賞につながったのです。これからも当賞の信念を継承し精進していければと思います。
<プロフィール>
立命館大学教授・児童精神科医。(一社)日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部を卒業し建設関連会社勤務の後、神戸大学医学部卒業。精神科病院等勤務の後、法務省宮川医療少年院等を経て、2016年より現職。医学博士。主な著書に『ドキュメント小説 ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』『どうしても頑張れない人たち』(いずれも新潮社)など。
漫画/鈴木マサカズ(すずき・まさかず)
<コメント>
担当岩坂氏と某県某所の少年院に取材に行き、宮口先生とはじめてお会いしたのは2020年の1月23日のことでした。そのおよそ一週間後に耳慣れない名前の新型ウイルスの第一報。連載開始は同年6月。つまりこの作品はコロナウイルスとほぼ同時に始まっているわけですが、そんな前代未聞の苦しい状況のなか、数多くの方に協力いただき、どうにかこうにか、ここまでやってこれました。我ながら、奇跡のバランスで成り立っている「共作」と自負しております。とくに作画スタッフと家族にはいつも支えてもらっています。本当にありがとう。これからも粛々と描き続けていきたいです。
<プロフィール>
愛知県出身。スピリッツ21(小学館)にてデビュー。現在、コミックバンチにて『「子供を殺してください」という親たち』(原作:押川剛/新潮社)くらげバンチにて『ケーキの切れない非行少年たち』(原作:宮口幸治/新潮社)、たそがれ食堂にて『すべっちゃいけない芸人ごはん』(原作:ヒデ/幻冬舎)を連載中。
編集者/岩坂朋昭(いわさか・ともあき)
<コメント>
こちらの作品は宮口幸治先生の同タイトルの新書を元に、宮口先生ご自身が「漫画用プロット」を書いた上で鈴木マサカズ先生がネームを製作し、その後も確認修正を繰り返し…という製作の流れになっています。この方法は漫画『「子供を殺してください」という親たち』(小社刊)から確立したメソッド。(原作の押川剛さんには感謝申し上げます)その上で、宮口先生と鈴木先生という稀有な才能の化学反応が結実し、素晴らしい成果になりました。我々以外にもくらげバンチ編集部や営業、そして電子販売の部隊に至るまで社内外のたくさんの方々のお力添えに、改めて御礼申し上げます。
<プロフィール>
1990年新潮社入社。FOCUS編集部で記者生活のあとメディア室などで勤務、2001年より週刊コミックバンチ編集部。新潮社コミック事業部、コミック&プロデュース事業部を経てコミック事業本部次長に。担当作に『さんてつ』『いつかティファニーで朝食を』『おひとりさまホテル』など。原作つきの作品としては、『白い巨塔』『全裸監督』『燃えよ剣』『「子供を殺してください」という親たち』『デリシャス・アンダーグラウンド』などがある。
▼選考委員コメント(寸評)
池上遼一 氏
児童精神科医であり、医療少年院の医師でもあった原作者の宮口幸治氏が各巻の末尾で解説しておられる通り、少年犯罪の実態がありのままにリアルに漫画で描かれている。無表情に近い少年たちの目に時として見せる悲しみ、怒り、遠慮がちな微笑など……その抑制的な絵の表現力によって、犯罪の背景の複雑さを胸に秘めた彼らの悲しい叫びが読む者の心に迫ってくる。
佐藤優 氏
少年院という特別の場に収容されている人たちの抱える問題が見事に描かれている。原作も優れたノンフィクションであるが、劇画にするにあたって構成を再度練り直していることにも好感が持ている。
絵に関しても、少年院の情景だけでなく、それぞれの子どもたちが抱える問題についてよく取材した上で、ていねいに描かれている。
長崎尚志 氏
知らない世界…人が興味を持つ世界をていねいに描いている。マンガを読む人の中に勉強したいから読む人がふえた証。
ストーリーが淡々としすぎている点は好みが分かれるところかもしれないが、そこに作品の方向性に合った作画家をピックアップした編集者の能力も評価したい。
やまさき十三 氏
35人のクラスに5人はいると言われる境界知能の少年たち。
親も本人もその障害に気付かずその分だけ苦しい思いをしているという。この作品はそんな少年たちにやさしい光を当てて、知的障害者の娘を持つボクの心を照らす。