第4回・第5回さいとう・たかを賞 授賞式の模様

新型コロナウィルス感染症流行のため、昨年度に開催できなかった「第4回さいとう・たかを賞」と併催で、本年度「第5回さいとう・たかを賞」の授賞式を1/20(木)に開催いたしました。授賞式の模様を、受賞者コメントとあわせて公開いたします。

 

前列 左より受賞者の武論尊氏、七海仁氏、月子氏、山里尚大氏                     
後列 左より選考委員の長崎尚志氏、池上遼一氏、やまさき十三氏

 

 

 

第4回さいとう・たかを賞<特別賞>受賞者 

武論尊(ぶろんそん)

 

武論尊(ぶろんそん)
本名、岡村善行。1947年長野県佐久市生まれ。15才で入隊した航空自衛隊の同期生、漫画家本宮ひろ志との縁で原作の道へ。1972年少年ジャンプでデビュー。『ドーベルマン刑事』『北斗の拳』の原作担当。史村翔のペンネームで『サンクチュアリ』担当等。

 

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<受賞式コメント>
「賞」という世界とはあまり縁がないなと思っていたところ、受賞の連絡をいただいて正直びっくりしました。さいとう先生に直接お礼を言えると思って楽しみにしていたのですが、突然ご逝去なされたと報告をいただきまして、結局お礼も言えずお会いもできず残念です。
漫画賞は、『HEAT-灼熱-』で小学館漫画賞をいただいたのですが、それまで全く縁がありませんでした。『HEAT-灼熱-』受賞の際も、2年連続でさいとう先生に強く推していただいて、最終的に受賞になったと聞いております。今回の受賞も含めて、いただいた2つの賞全てさいとう先生が関係しておりまして、私は先生によくかわいがられていたのだなと実感しています。
先生の中では、私に自分と同じ匂いを感じていたのかなとも思います。私もさいとう先生も作中で人を殺していまして、さいとう先生に「こいつ、わしより殺してるな」と思われていたような気もします。さいとう先生はエンターテイメントへのこだわりがあったと方だと思います。私もいつもマンガは全部エンターテイメントで、おもしろくなければマンガではないと思っていまして、その辺がさいとう先生が評価してくれたところかなと思います。これからも受賞に恥じないように頑張っていきたいと思います。


<寸評>
さいとう・たかを賞とは分業システムにより作品創りにチャレンジする次世代の制作者に賞を与えてきましたが、今回は特別賞としてこの業界のために尽力されている方に贈りたいと思います。武論尊氏は多くの作品を手掛けながらも「武論尊100時間漫画塾」を開催されたりと、この業界の為に後人の育成に尽力されている事は大いに評価されるべきだと思います。(さいとう・たかを)

 

 

 

 

第5回さいとう・たかを賞 受賞作品

『 Shrink 〜精神科医ヨワイ〜』

 

<書誌情報>
原作:七海仁、漫画:月子、集英社「グランドジャンプ」連載

©Jin Nanami 2020 @Tsukiko 2020

 

<受賞者および授賞式コメント>


シナリオライター/七海仁(ななみ・じん)

アメリカでジャーナリズムを学び、帰国後通信記者、雑誌編集長などを経て独立。2019年「グランドジャンプ」(集英社)『Shrink ~精神科医ヨワイ~』にて漫画原作者デビュー。現在も同作品を連載中。

 

七海仁

 

このたびは素晴らしい賞をいただきありがとうございます。私は以前より月子さんの漫画の読者でしたので、作画を担当してくださるのが月子さんに決まった時とても嬉しく思いました。以来2年半、自分が書いたシナリオが「こんなにいいシーンになるなんて」と驚かされたり、難しい描写もあるかと思いますが登場人物一人ひとりの細やかな表情まで丁寧に描いてくださることに感動したり、そのお仕事を見ては自分もより一層頑張ろうと思わせてもらっています。自分一人では知りえなかった世界を見せてくださる、素晴らしいパートナーです。
編集の山里さんは、いい意味でいつもひょうひょうとしてくださっていて、何か問題があってもきっとフラットに受け止めて対応してくださるだろうという安心感があります。
また、「Shrink」は、ゼロからすべてをオリジナルでつくることができない作品です。毎日精神医療の現場で頑張ってくださっている医療従事者や支援職の方々、そして何より病や苦しみを抱えながら毎日を一生懸命生きている当事者の方々にお話を伺って書かせていただいています。「Shrink」を書こうと思ったきっかけになった私の家族もそのひとりでした。突然の病に倒れ、長い時間をかけてそれを受け入れ胸を張って立ち上がろうとする姿を見ながら、私はそこには語るべき物語、一人でも多くの方に伝えるべきメッセージがあると思いました。さいとう・たかを賞は、そういったすべての人達を含めたチームで頂いた賞だと思っています。
私はもともと出版社で雑誌を作っていたのですが、子供のころからマンガが大好きで、今もマンガは無限の可能性がある、最高のエンターテイメントだと思っています。時々読者の方から「『Shrink』は精神医療という非常にセンシティブなテーマを扱った作品なので、簡単に『面白い』とか『楽しい』と言ってもいいのだろうか」というご意見を頂くことがあります。でも、「Shrink」もやはり漫画なので面白いと言っていただけることが一番嬉しいです。これからも一つでも多く「面白い」と言っていただけるストーリーを書いていきたいです。

 

 

 

作画家/月子(つきこ)

岩手県盛岡市出身。2000年、「別冊ヤングマガジン」(講談社)にてデビュー。著書に『僕の血でよければ』(集英社)、『彼女とカメラと彼女の季節』『つるつるとザラザラの間』『バツコイ』(講談社)、『トコナツ』(幻冬舎)、『最果てにサーカス』(小学館)など。現在「グランドジャンプ」(集英社)にて『Shrink~精神科医ヨワイ~』(原作:七海仁)を連載中。

 

月子

 

マンガだけで食べていけるようになって10年くらい経つのですが、オリジナルだと珍妙な作品を好むので、賞と名の付くものに私が受賞できると思っていなかったです。なので、受賞のお知らせを聞いたときは、びっくりしましたし、ありがたかったです。「Shrink」に出会わせてくれた山里さん、綿密な取材を重ね温かみのあるストーリーにしてくださる七海さん、ありがとうございます。
生まれてからずっと絵を描くこと、物を作ることを肯定してくれて、芽が出ない時も応援してくれた両親にとても感謝しています。
「Shrink」はまだ連載中で、ずっと続いてほしい。病の方々や身近にいる方が手に取れるところに「Shrink」があって、ヒントになるような、ほっとするような作品なればいいなと思っています。

 

 

 

編集者/山里尚大(やまさと・なおひろ)

2007年から株式会社 集英社「ビジネスジャンプ」でのアルバイトを経て、現在は編集者として主に同社「グランドジャンプ」に携わる。プロダクション(株)VTANK所属、(株)ASYL会長。現在の主な担当作品は『来世ではちゃんとします』『デンタルクエスト』『渇望する果実』『恋愛無罪』等。

 

山里尚大

 

七海先生から初めて「Shrink」という作品の構想を伺ったときに、これはきっと凄い作品になる…という予感がありました。なぜかというと、七海先生が長年、この精神医療という分野に深く関わってきて、勉強されてきていたことを知っていたからです。
そして、月子先生の優しい絵柄は、本作にとても合っています。繊細で複雑なテーマなので、描くのがとても大変な回も多いはずなのですが、難しい要求にいつも応えてくださって感謝しています。「Shrink」は、月子先生の描写力なしでは成立しえない作品です。
お2人の才能が存分に発揮されて生み出された本作が、今こうして多くの方にご評価いただけたことがとても嬉しいです。
これからさらに大勢の方に「Shrink」を届けていきたいです。さいとう・たかを賞をきっかけに、国内だけでなく海外の多くの国へと、本作を広めていけたらと思います。

 

 

 


■第4回さいとう・たかを賞 概要
新型コロナウイルス感染拡大の情勢下においても「さいとう・たかを賞」の目的である『ゴルゴ13』制作システムの文化継承を実行していくべく、例年とは異なり、分業・プロダクション方式でのコミック制作に長らく尽力してきた方に<特別賞>を贈呈
<賞品>
【正賞】ゴルゴ13像トロフィー
【副賞】50万円

 

 

■第5回さいとう・たかを賞 概要
<選考対象>
シナリオライター(脚本家)と作画家の分業により制作されており、2017年9月1日〜2021年8月31日の期間中にコミックス第1巻が刊行されている、成人男女を主な読者対象としたコミック作品
<選考方法>
さいとう・たかを劇画文化財団内にて一次選考を行った後、最終選考ノミネート作品を決定し、選考委員による最終選考にて受賞作1作を決定。
<選考委員>※委員名50音順・敬称略
池上遼一、佐藤優、長崎尚志、やまさき十三
<賞品>
表彰対象は、該当作品のシナリオライター・作画家・担当編集者(または編集部)の3者とします。
【正賞】ゴルゴ13像トロフィー(シナリオライター・作画家・担当編集者)
【副賞】50万円(シナリオライター・作画家)