ゴルゴ13名エピソードガイド 第476話「アナライズ・ウクライナ」

 | 

 

 

 

ゴルゴ13 名エピソードガイド 第476話「アナライズ・ウクライナ」

 

新聞広告の募集でMI6の職員になったジェレミーがウクライナで起きた不可解な狙撃事件の情報を耳にする。対抗勢力の大統領と首相がそれぞれ同じ日に狙撃されどちらも無事だったが、その狙撃には「G」なる存在が関わっていると。引退した老アナリストとジェレミーが「G」の正体を追うと、意外な事が明らかになっていく。当然「G」こそゴルゴであろうと想像して読み進める読者をミスリードしていく構成が見事だ。

 


2007年11月に発表された「アナライズ・ウクライナ」は現実のウクライナ情勢を知る教材としても優秀だ。2004年に行われたウクライナの大統領選挙はウクライナの複雑な立ち位置を世界に知らしめる選挙であった。ロシア寄りの前大統領後継者のヤヌコーヴィチ首相と、民主革命と市民社会の建設を掲げたEU寄りの野党指導者ユシチェンコ元首相の一騎討ちで、作中に登場するマルケビッチ首相とエロシェンコ大統領はそれぞれをモデルにしている。選挙はヤヌコーヴィチの当選が発表されるが、不正があったとして大規模なデモやストライキが起こり、再選挙の上ユシチェンコが大統領となった。オレンジ革命と呼ばれるこの政治運動は作中ではカラー革命と描かれている。ちなみにエロシェンコがカラー革命の際に毒殺されかかったという描写があるが、これもユシチェンコに実際に起きた事件だ。

 


アナリストはやがて背景に第二次大戦時にドイツによってウクライナで対ソ連向けに編成されたガリツィア師団の存在を嗅ぎ取る。第14SS武装擲弾兵師団と呼ばれるガリツィア師団ももちろん実在する。ここにも複雑なウクライナの独立の長く困難な歴史が大きく関わっており、逆説的に日本人がいかに平和の有難さを無自覚に享受しているかあぶり出してくる。最新の世界情勢と歴史も勉強させてくれる、まさに教材のような一編だ。

 

 

 

 

Writer

今秀生