第2回さいとう・たかを賞、国境をこえ新しいマンガ制作のページを切り開いた作品が受賞

 

 

第2回さいとう・たかを賞、国境をこえ新しいマンガ制作のページを切り開いた作品が受賞


分業・プロダクション方式での制作を行っている応募作品の中から1作品を選定して正賞を贈り、その栄誉を称えるマンガ賞として2017年に創設した「さいとう・たかを賞」。第2回目となる2018年度には、16作品が集まりました。

 

さいとう・たかを劇画文化財団による一次選考会を経て最終選考会に選ばれたのは、『イサック』(原作:真刈信二、漫画:DOUBLE-S)『グラシュロス』(原作:金城宗幸、ART:藤村緋二)『死神にだって、愛はある。』(脚本:吉田真侑子、漫画:泉ウラタ)『マイホームヒーロー 』(原作:山川直輝、漫画:朝基まさし)『ましろ日』(原作:香川まさひと、作画:若狭星)『RDB』(原作:たかしげ宙、作画:六本木順)の6作品。

 

 

 

 

11月13日、さいとう・たかを、池上遼一氏、佐藤優氏、やまさき十三氏、そして新たに加わった長崎尚志氏の5名による最終選考が小学館で行われました。

 

▲最終選考の様子の写真

 

白熱した議論が展開され、最終選考6作品の中から『イサック』『マイホームヒーロー 』『ましろ日』の3作品に。「分業による制作文化を次代に継承していくこと」という「さいとう・たかを賞」の趣旨に立ち返り、「日韓合作という形で文化的なギャプを超え、新しいマンガ制作のページを切り開いた『イサック』が受賞作として選ばれました。

 

詳しい最終選考会の様子はこちらから

 

 

 

2019年1月11日に行われた記者発表・授賞式には、『イサック』シナリオライターの真刈信二氏、作画家のDOUBLE-S氏、アフタヌーン編集部編集者の荒井均氏が登壇し、賞の贈呈が行われました。

 

▲授賞式の写真

 

 

<受賞者コメント>(※2019年1月当時のコメントを再掲)

 

シナリオライター/真刈信二(まかり・しんじ)

 

『イサック』がこのような賞を頂いたことは、原作者としてたいへん光栄です。『イサック』は原作者、作画家、編集者の他に、私の原作を韓国語に訳してくれる翻訳家と、作画家、翻訳家を私たち日本サイドに結びつけてくれる代理人をも含めたチームの作品です。予想もしなかった今回の受賞を励みに、より面白い原作を書くことでチームの共同制作を盛り上げていきたいと思っております。ありがとうございました。

 

1993年、「モーニング」に掲載された『オフィス北極星』(漫画 中山昌亮)で漫画原作者デビュー。代表作に「アフタヌーン」「イブニング」に掲載された『勇午』(漫画 赤名修)がある。現在「アフタヌーン」にて『イサック』(漫画 DOUBLE-S)を、「モーニング」にて『サガラ~Sの同素体~』(漫画 かわぐちかいじ)を連載中。

 


作画家/DOUBLE-S(だぶるえす)

 

前作が終わって、いくつかの企画をいただきましたが「次は1人でストーリーも描いてみたい」と思っていた最中に真刈先生のシノプシスに出会いました。真刈先生の作品は面白いし、ハード感ある作品が好きでしたがそれも古い作品ということもあり、正直期待していませんでした。しかし、シノプシスの最初の一文で描きたい!と思いました。なんでもない文章でしたが、次はストーリーも自分で書こうと考えていた私にはあまりに圧倒される一文でした。その後、1話の全体シナリオをいただいて、作画を引き受けたことを後悔しました。自分に描けるか不安だったからです。

 

毎話ストーリーについていくだけでやっとの状態なのにこのような賞を受けることができ、少しは認めてもらえたかなと大変嬉しく、光栄に思っております。選考していただいたさいとう・たかを先生、審査員の方、素敵なストーリーを書いてくださる真刈先生や担当編集の方、そしていつも読んでくださる読者の皆様に感謝申し上げます。

 

2005年より2015年まで『死がふたりを分かつまで』(原作・たかしげ宙)を「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)にて連載。2017年より『イサック』(原作・真刈信二)を「アフタヌーン」にて連載開始。

 

 

編集者/荒井 均(あらい・ひとし)(講談社 アフタヌーン編集部)

 

「男がたったひとり、かたき討ちのため日本から神聖ローマ帝国にわたり、戦場で戦う」という、真刈さんの着想がまず素晴らしいです。さらには日本人なら刀、という先入観を覆し、火縄銃で戦う主人公、というのも今作の大きな魅力です。

 

DOUBLE-Sさんは画力に優れた漫画家ですが、「カッコいい男をてらい無くカッコよく描ける」のが特に良いところだと思っています。真刈さんの生み出した骨太なストーリーやキャラクターを見事に漫画にしています。

 

真刈さんは大阪在住でDOUBLE-Sさんはソウル在住です。東京と大阪とソウルとでメールを駆使して打ち合わせをして、17世紀のヨーロッパを舞台にした漫画を生み出しているのは、なんだかとても現代的で刺激的だと感じています。

 

1995年講談社入社。「週刊少年マガジン」「ヤングマガジン」「モーニング」などを経て現在「アフタヌーン」編集部に在籍。

 

 


<選考委員コメント>

池上遼一氏

銃士として戦う日本人傭兵の火縄銃に刻印された“文字”がアイテムとしてうまく生きており、主人公の生きざまに素直に共感できる。確かな資料による裏付けが、スペクタクルな作品のテーマを解りやすく魅力的なものにしている。エンターテインメントを追求したストーリー展開とキャラクターの個性、箴言ともとれる名言も素晴らしい。コマ割りや絵の表現スキルにもただならぬ才能を感じ、戦争シーンなどはハリウッド映画を観ているような臨場感に圧倒される。


佐藤 優氏
歴史をよく勉強した上で、中世ヨーロッパに日本人が出現したらどうなるかという思考実験を行っている。火縄銃を狂言回しのツールにしているところも面白い。
また、日本のシナリオライター・編集者と韓国の作画家の分業という制作体制は、コミックの次代に向けての新たな展開を感じさせる。


長崎尚志氏
画もストーリーも素晴らしい! 青年向けのコミックにおいて、この種の題材で定着した作品は少ない。よくこれだけマニアックなジャンルをメジャーなものに仕上げたと感心したし、こういったテーマを今の時代に堂々と出してきたことにも気概を感じる。


やまさき十三氏
江戸時代の鉄砲鍛冶職人が戦乱の中世ヨーロッパを舞台に傭兵のスナイパーとして活躍する奇想天外の設定が成功したのは、作画家の圧倒的な画力によるところが大きい。
登場するキャラクターもいいし、戦闘シーンも非常に迫力がある。
「日本人って何だろうか?」ということを改めて考えさせられる、刺激的な作品。


さいとう・たかを
緻密な絵には圧倒されるし、コマ運びもうまい。ストーリーの流れもよくできている。
非常に達者な作品である。

 

 


「第2回さいとう・たかを賞」第2回 概要

 

<選考対象>
シナリオライター(脚本家)と作画家の分業により制作されており、2015年9月1日~2018年8月31日の期間中にコミックス第1巻が刊行されている、成人男女を主な読者対象としたコミック作品

 

<賞品>
表彰対象は、該当作品のシナリオライター・作画家・担当編集者(または編集部)の3者とします。
【正賞】ゴルゴ13像トロフィー(シナリオライター・作画家・担当編集者)
【副賞】50万円(シナリオライター・作画家)

 

<最終候補作品>

『イサック』
シナリオライター:真刈信二
作画家:DOUBLE-S
講談社「月刊アフタヌーン」連載中、既刊9巻(2020年7月現在)

 

『グラシュロス』
原作:金城宗幸
ART:藤村緋二
講談社「週刊ヤングマガジン」掲載、全5巻

 

『死神にだって、愛はある。』
脚本:吉田真侑子
漫画:泉ウラタ
コアミックス、全2巻

 

『マイホームヒーロー 』
原作:山川直輝
漫画:朝基まさし
講談社「週刊ヤングマガジン」連載中、既刊12巻(2020年9月現在)

 

『ましろ日』
原作:香川まさひと
作画:若狭星
小学館「ビッグコミックス」掲載、全7巻

 

『RDB』
原作:たかしげ宙
作画:六本木順
スクウェア・エニックス『ヤングガンガン』掲載、全4巻

 

主催:一般財団法人 さいとう・たかを 劇画文化財団
後援:小学館