第5回 さいとう・たかを賞 受賞作 12/10発表情報 『Shrink~精神科医ヨワイ~』

(c)七海仁・月子/集英社

 

<書誌情報>
原作:七海仁
漫画:月子
集英社「グランドジャンプ」連載

 

<作品紹介>
パニック障害、うつ病、発達障害——。隠れ精神病大国と呼ばれる日本は、その名の通り、精神病患者の数自体は、アメリカ等と比べると少ない。その一方で、自殺率は先進国の中でも最悪レベル。悩んでいても“精神科は特別なところ”という思いこみが、人々の足を遠のかせてしまう…。精神科医・弱井は、そんな日本の現状を変えていき、一人でも多くの“心”を救うべく、こう願う——。「僕はこの国に、もっと精神病患者が増えればいいと思っています」

 

原作/七海 仁(ななみ・じん)

このような素晴らしい賞をいただき、また、長年第一線でご活躍されている先生方に作品をお読みいただけたことを心より感謝いたします。

『Shrink』は、日々精神医療の現場でご尽力されている医療従事者の方々、苦しみを抱えながら毎日を精一杯生きている当事者の方たちにお話を伺いながら書かせていただいている作品です。類まれな表現力でキャラクターに命を吹き込んでくださる月子さん、気持ちよく仕事できるようにと心配りしてくださる山里さんや編集部の皆様に加えて、関わってくださったすべての方がチームのメンバーだと思っています。今回「チーム」として評価していただけたことが何より嬉しいです。さいとう・たかを先生のお名前を冠した賞に恥じぬようこれからもまっすぐ書き続けていこうと思います。

 

<プロフィール>

アメリカでジャーナリズムを学び、帰国後通信記者、雑誌編集長などを経て独立。2019年「グランドジャンプ」(集英社)『Shrink ~精神科医ヨワイ~』にて漫画原作者デビュー。現在も同作品を連載中。

 

漫画/月子(つきこ)

一人目の子を出産した後、ホルモンのせいか自分の描く恋愛漫画のキャラクターにまったく興味が持てなくなる時期がありました。次は恋愛以外のものが描きたいと考え、面白い原作があればくださいと担当編集さんにお願いしていた時に出会ったのが『Shrink』です。ぜひ描かせてほしいと思い一瞬で一話目のネームを切り、とても幸運なことに作画の座をゲットできました。精神の病は自分が知る以上に複雑で奥が深く、毎話勉強させていただきながらの作画です。教えてもらってばかりの連載ですがこのような名誉ある賞を頂戴することができ光栄です。これをきっかけにもっと多くの、この作品を必要としている方々に届いて欲しいと思います。

 

<プロフィール>

岩手県盛岡市出身。2000年、「別冊ヤングマガジン」(講談社)にてデビュー。著書に『僕の血でよければ』(集英社)、『彼女とカメラと彼女の季節』『つるつるとザラザラの間』『バツコイ』(講談社)、『トコナツ』(幻冬舎)、『最果てにサーカス』(小学館)など。現在「グランドジャンプ」(集英社)にて『Shrink~精神科医ヨワイ~』(原作:七海仁)を連載中。

 

編集/山里 尚大(やまさと・なおひろ)

「『Shrink』なら受賞できるのではないか」と実は最初から、ひとり密かに思っていました。両先生の才能と作品自体のポテンシャルへの確信もさることながら、本作がまさに今、強く世の中に求められていると感じてきたからです。

七海さんからシナリオを受けとるたびに本当に勉強になり、発見があります。その七海さんがこめた想いを筆に乗せて描かれる、月子さんの美しい原稿を受けとるたびに、溢れる優しさと救いに感動します。

『Shrink』は青年誌連載としては非常にファンレターの多い作品で、SNS上では海外の未翻訳地域からの感想も沢山いただきます。名前のわからない不調に苦しむ人は、国や地域を問わず大勢いるのでしょう。国内外からのそれらの声をいただくたび、まだまだ多くの人に届けなければ…と感じます。今回、賜りましたこの大変な名誉とともに、『Shrink』を世界中の必要とされる場所へ届けていきたいと決意を新たにしました。

 

<プロフィール>

2007年から株式会社 集英社「ビジネスジャンプ」でのアルバイトを経て、現在はフリー編集者として主に同社「グランドジャンプ」に携わる。編集プロダクション(株)VTANK所属、(株)ASYL会長。現在の他の主な担当作品は『来世ではちゃんとします』『デンタルクエスト』『渇望する果実』『恋愛無罪』等。

 

▼選考委員コメント(寸評)

 

池上遼一氏:人間心理を微細に描いたストーリー。決して他人事とは思えない似た症状を感じる読者も少なからずおられるかもしれない。爽やかな画風で描かれる医師の人柄のように、あたたかい包容力に癒されているような読後感が味わえる。

 

佐藤優氏:今まさにコロナ禍で心を苦しめている人が、手を伸ばしたであろう作品。精神病に対して一つの学説に偏らずに、原作家、作画家、編集者が一つひとつのケースについて考え、納得したものを描いている。理屈っぽくない点も良かった。

 

長崎尚志氏:非常に現代的なテーマ。よく調べられており、漫画としてだけではなく、救いを求めて読んでいる人も多いのではないか。漫画の可能性を広げた作品。ドラマチックな部分には欠けているが、これで良いと思う。

 

やまさき十三氏:絵にしにくい心の闇の世界を、ライターと作画家がコラボして描くことで、精密に、そして簡潔に読み手の心に伝わる作品となっている。苦しみと感動をわかち合うという漫画の新しい地平を拓いた。