ドラマを見せるには少ないページじゃダメ
―主人公ができて名前も決まって、それからドラマを作る流れなんですね。第1話のクレジットには「構成:さいとうたかを」とあって、「脚本:小池一雄(一夫)、さいとうたかを」となっています。さいとう先生が脚本も手掛けたんですね。
さいとう 小池は思いつきが素晴らしかったですね。すごいなって。あれはB型なんですよ。B型は拡散思考の発達がすごい。A型の私なんかには理解できないような、「え?」と驚くようなことをよう考えましたね。(第1話で描かれる)背後に立った女を殴るなんて、あんなん私には浮かんで来ません。何でこんなことするんだ?って聞いたら、「後ろに忍び寄られたら反射的に攻撃するのも悪くないでしょ」って。面白い。
―では、そういう小池一夫さんのシナリオをベースにしてさいとう先生が手を加えていった?
さいとう そうです。彼のそういう発想は本当に素晴らしかったんですが、これはB型の欠点なんですが、話がまとまらないんですよ。尻切れトンボになったりね。ケツがどうにもまとまらないので、大体前半はそのまま彼の台本通りに描いて、後半はまるまる描き直しっていうのが多かったですね。本来なら本人に書き直させた方が彼のためにもなるんだろうけど、締め切りがあるから時間がないんですよ。だから後半は私の方で描いてましたね。
―第1話「ビッグ・セイフ作戦」から、『ビッグコミック』が月刊時代は毎号70ページ連載でした。前代未聞のオーダーですよね?
さいとう こちらから最初に、ドラマを見せたいんだから少ないページじゃダメだぞって言いましたからね。でもまさかそんなにページ貰えると思ってなかったから驚きました。「やれるかな」って思いましたけど、やりだしたらやれましたね。そのあとに隔週になっても毎号同じ量描けって言われて、そんな描けるかって言いましたよ(笑)。
―それ以前はマンガ雑誌でも一つの作品で16ページ載せるの大変だったんですよね?
さいとう そうですよ。大人向けの『週刊漫画TIMES』って雑誌に持ち込んだ時(1964年頃)、8ページって言われたんですから。8ページでドラマが描けるかってね。徐々に増やしていってくれて、それで何とかドラマを描ける枚数までいきましたね。
―原稿は完全に完成してから編集部に見せる感じですか?
さいとう そうですね。ネームは見てると思うけど、それで打ち合わせしたりはしない。
―原稿を受け取った編集者の反応は覚えてますか?
さいとう 覚えていませんね、ギリギリでしたから。
―小西編集長から何か感想を言われたりは?
さいとう なかったですね。何か言われたかな。なかったよね。
「ゴルゴ13」をやめようと思った事はない
―さいとう先生はよくインタビューで、「ゴルゴ13」の物語のパターンは10くらいしかないとおっしゃってますね。
さいとう 10パターンくらいしか考えてなかったんです。だから最初は10話で終わる予定だったんですよ。編集部には言ってなかったですけど。パターンで考えると、追いかけっこや宝探しやそういうことを10話くらいしか出てこない。だからまあ10話だなって思って。
だけど、それがあってここまで続いたんですよ。どういう事かと言うと、その時に10話分はパターンで考えてあって、一番最後の話も考えてあったんですよ。「ゴルゴ13」は大河ドラマじゃないから、最終回以外の話はいくら描いても挿話なわけですよ。10のパターンでドラマを作り、後はほっかむりです(笑)。
―第1話を描いた時点では特別な作品になるとは全然思っていなかったんですね。
さいとう 全然。思っていなかったです。こんな話がそもそも続くと思っていませんもん。
―「こんな話」っていうのは殺し屋の話という意味ですか?
さいとう ええ。いらないですもん、こんな人物(笑)。今の最先端の技術があれば、兵器で計算でピンポイントで狙えるじゃないですか。
―特別な手応えがあったわけでもなかったんですね。
さいとう 別になかったですね。確かに面白いとは思いましたけど、こんな続くとは思ってなかったですね。ここまでもっていけると思いませんでしたよ。ある時期からパターン分けの繰り返しが上手く出来るようになったので、これでちょっとは続くかなと思いましたけどね。ドラマなんて所詮そんなものだと思うし、そんなにパターンがあるものじゃないですよ。
―キャラクターが上手く出来てしまえばあとはドラマにはめ込めばいいという話ですね。
さいとう そうですね。ゴルゴをあんまりしゃべらせないキャラクターにしたでしょ。だからなんぼ続けられるようになったんですよ(笑)。余計なことは何も言いませんから。普段の人間でもそうですが、ボロが出るでしょ、余計なことを言うと。
―さいとう先生の職人技の集大成が「ゴルゴ13」という事ですね。
さいとう そうですね。ここまで続けられるとは思ってなかったですね。だって10話しか思いつかなかったんですよ。それが50年ですよ。
―「ゴルゴ13」をもう描きたくないなとか、終わらせたいなという事はありましたか?
さいとう それはよく聞かれるんですよ。やかん屋が「作るの飽きた」って言います? たまにはいるでしょうが、職業っていうのは本質的にそう思ったらいけないものでしょう。どれだけ頑張ってそれを続けさせることができるかっていうのが職業ですよ。私は職業として劇画を描いてるわけです。
―ではやめようと思った事はないんですね。
さいとう ないですね。そんなおこがましい事を思ったことないです。
Editor & Writer
今秀生
※当インタビュー記事は「さいとう・たかを 劇画 大解剖」に収録されたものを抜粋して掲載しております。
2020年5月10日発行
発行人 星野邦久
編集人 木村斉史
発行所 株式会社三栄